【高額医療制度】【限度額適用認定】とは?

みなさん、こんにちは。さて、前回「健康で仕事をする、という事」と題して、病気について語りました。多くの人は病気になって初めて「健康」の大切さを思い知るのではないでしょうか?そして、入院や手術、その後の治療となるとお金の方も気になるのではないでしょうか?

病気や怪我で働けない間の補償は、有給休暇などの福利厚生やご自身で掛けている生命保険などである程度まかなえる可能性がありますが、健康なときに入った保険は意外と毎月の掛け金の方が気になってしまい、いざ大病をしたときに十分な補償がない!?なんてこともよく耳にする”あるある”です。ただこれらは各個人の考え方や資産の状況に応じますので、今回は生活の補償ではなく、医療費そのものが高くなってしまったときの社会保険(※)の制度についてお話したいと思います。

※ここでは政府管掌の社会保険(一般従業員の4分の3以上の勤務、あるいは週30時間以上の勤務、2023年6月現在では被保険者数101人以上の企業に対する短時間労働者『週20時間以上、月88,000円以上などの条件あり』)についてお話します。会社によっては組合などの保険に加入している場合がありますので状況に応じてお調べください。

高額医療費制度とは?

「お腹が痛くて病院に行ったら手術することになった」「交通事故に遭い、救急車で運ばれそのまま入院になった」などなど思いもよらない急な病気や怪我で入院や手術になった場合、退院時には大きなお金が必要になります。高額医療費制度とは、そんな高額な医療費を支払ったときにある一定額以上の払い戻しを受ける事ができる制度です。

ある一定額のことを「自己負担限度額」と呼び、2023年6月現在は以下のとおりとなります。

所得区分自己負担限度額多数該当
区分ア
標準報酬月額81万円以上
252,600円+(総医療費-842,000円)×1%140,100円
区分イ
標準報酬月額53万~79万円の人
167,400円+(総医療費-558,000円)×1%93,000円
区分ウ
標準報酬月額28万~50万円の方
80,100円+(総医療費-267,000円)×1%44,400円
区分エ
標準報酬月額26万円以下の方
57,600円44,400円
区分オ
市区町村民税の非課税の方
35,400円24,600円
例)70歳未満の方の区分

標準報酬月額とは、毎月もらっている給与のことではなく、入社(加入)時に算定された月額あるいは、毎年4~6月に支払われた給与の平均値で10月~翌9月までに決定する算定基礎届のことを指します。一般的に20~30万円台の給与だと2万円刻みで等級が設定されていますので、月給が269,000円の人は標準報酬月額では26万円の等級になり区分エ、月給が271,000円の人は標準報酬月額では28万円の等級になり区分ウに該当します。難しい話ですが、少しのことで違ってきますので注意してください。

高額医療費制度の計算例

自身の区分がエで、『1日~末日』までの間に入院あるいは手術し、退院時に『保険適用される医療費』を21万円払ったとします。

この場合、上記表に当てはめると自己負担限度額は57,600円になりますので申請をすれば152,400円が戻ってくることになります。

自身の区分がウ以上の人は、総医療費という難しい言葉がありますが、これは10割の「総額」を指します。3割負担で210,000円を窓口で支払った場合、10割は700,000円になりますので、計算式は

80,100円+(700,000円-267,000円)×1%=84,430円

となり、差額の125,570円が戻ってくることになります。

高額医療費制度の注意点とは?

①『1日~末日』までの、とあるように計算の期間は「月」単位で行われます。たとえば入院費が15万で同じ月内に入院と退院があったときには自己負担限度額が8万円と少しですので7万円弱が返ってきますが、25日~翌5日まで入院した場合25日~30(31)日と1日~5日の2回に分かれどちらも自己負担額に到達しないと1円も返ってこない事になります。

つまり、入院するタイミングはかなり重要ですので、重病ではない限り、お医者様と相談して月初からの入院の方が制度をうまく利用できることになります。

②『保険適用される医療費』とある通り、入院中の食事代やパジャマ代、個室をお願いした時の差額ベッド代は含まれません。2週間の入院で15万円かかり高額医療費制度で「7万円弱が返ってくる♪」と思っていると実は食事代で460円×3食×14日+ベッド代5,000円×14日=89,320円が含まれていて、実際の医療費は60,000円ちょっとだったため、1円も戻ってこなかったという落とし穴もあります。

③『自己負担限度額』にも落とし穴があります。

  • 医療機関ごとに計算します。同じ医療機関であっても、医科入院、医科外来、歯科入院、歯科外来に分けて計算します。

自己負担限度と言うと多くの人は、その月の中で自分が負担する「最大値」を想像すると思います。ですので、自己負担限度を超えた医療費は全部返ってくると思い、『どうせ入院して限度額を払うなら、今のうちに膝が痛いのも見てもらおう、歯も痛いから歯医者にも行こう』と考えるのが普通です。

ですが、実はコレ、落とし穴です。入院と外来は別物、歯医者は別物となっていますので、入院中に限度額を超えた場合でも、退院後の経過観察で腹部エコーやCT、内視鏡検査などで2万円ほどかかっても、こちらは外来のカウントになるので、支払う必要があります。

④返還までの期間

限度額を超えた医療費の返還は、診療報酬明細書の審査がありますので、およそ3か月程度かかります。病気が治って忘れた頃に戻ってくるぐらい期間が空いていますので注意が必要です。

⑤そのほか、世帯合算や70歳以上の方、高額医療が1年の間に3回以上適用された場合の4回目以降(表の「多数該当」)など、複雑な仕組みがありますので、うまく制度を利用する必要があります。

限度額適用認定とは?

先に説明した「高額医療費制度」は3か月以上たってから差額が返ってくるとはいえ、財布からいったんは支払わないといけないので、大きな負担になります。

もし急な怪我や病気ではなく、あらかじめ分かっている入院や手術の場合は、先に「限度額適用認定」を受けておくことで退院時のお支払いを自己負担額までに抑えることができます。

限度額適用認定の手続き方法

政府管掌の社会保険の場合、「健康保険限度額適用認定申請書」に必要事項を記入し、管轄の協会けんぽの支部に提出することで、後日「限度額適用認定証」というハガキより少し小さいサイズの紙が届きますので、保険証と一緒に病院の窓口に提出すれば、退院時の清算では限度額が自動で計算れます。

限度額適用認定の注意点とは?

①限度額適用認定の申請は、原則、被保険者本人が行います。申請書は、政府管掌の社会保険であれば、協会けんぽのホームページからダウンロードできます。自宅にパソコンやプリンタがない場合は、管轄の協会けんぽ、病院、会社に相談してみましょう。急な病気や怪我で申請ができない場合、会社に相談すれば総務か経理の人があなたに代わって申請してくれるかもしれません。

②限度額適用認定証が手元に届くまで1週間程度かかります。私のようにGW中に入院した場合は、協会けんぽも休暇に入っているため、最大で2週間程度かかる場合もありますので、届く前に退院が決まってしまうと診療報酬が計算されてしまうため注意が必要です。

③限度額の適用は「申請月の1日から1年間」となりますので、何があっても遡ることはできません。したがって、長く入院している場合や月をまたぐ入院の場合、認定証が完成して手元に届く期間も計算に入れて早めに申請しておかないと入院の前半は高額医療費制度、後半は限度額適用認定証といった事にもなります。

急な入院が決まり、限度額適用認定申請書を出したけど退院までに届かなかった!?

認定証の交付に1週間程度かかりますので、完治の早い人は届くまでに退院が決まるかもしれません。あるいは、1人暮らしの人は自宅に届いていても、どうすることもできません。

その場合は、退院時の請求書も当然限度額が適用されていないため、いったん高額医療を払うことになります。

しかし安心してください。注意点の③のとおり、遡ることはできませんが、認定証はその月の1日から適用されますので、いったん払った高額医療は本来であれば高額医療費申請をして3か月後にしか返金されませんが、認定証があれば病院側で払い戻しをしてくれる場合があります。多くの場合は、退院しても1週間後ぐらいに経過観察で通院となると思いますので、そのときに認定証を提出すれば、その日の病院代は、払い戻しも含めて計算(マイナスの場合は、お金がもらえる)されると思います。

ただし、注意点は病院側もレセプトを書き換え、請求書そのものも差し替えるため、退院時に受け取った領収書と引き換えになります。領収書がないと還付を受けられませんので、無くさないように保管しておいてください。

ちなみに、高額医療や限度額適用認定証と確定申告の医療費控除は別物ですので、1年を通じて10万円以上の医療費がある場合は確定申告をすることで所得税の還付を受ける事ができる可能性がありますので、こちらも制度をうまく理解して利用しましょう。

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